事故やヒヤリハットが発生すると、会社は再発防止策を考えます。
作業者へ注意する。
再教育を行う。
チェック項目を追加する。
手順書を改訂する。
朝礼で周知する。
そして、
「これで再発防止は完了しました。」
となります。
ところが、数か月後。
また同じような事故が起きる。
別の人が同じミスをする。
別の工程で似た問題が発生する。
このようなことは珍しくありません。
なぜでしょうか。
一つの大きな理由は、
起きた出来事だけを直し、事故を生んだ仕組みまで変えていないから
です。
例えば、作業者が確認を忘れた事故に対して、
「今後は必ず確認する。」
という対策を取ったとします。
しかし、
なぜ確認を忘れたのか。
なぜ忘れても作業が進んだのか。
なぜ別の仕組みで検出できなかったのか。
そこまで変えなければ、同じ条件が残ります。
そして、同じ条件が残れば、いつか別の人が同じミスをする可能性があります。
再発防止とは、
「同じ人にもう一度やらせないこと」
ではありません。
同じ条件がそろっても、同じ事故が起きない仕組みに変えること
です。
今回は、なぜ同じミスが繰り返されるのか、そして本当に効果のある再発防止とは何かを考えます。
「再発防止」とは何を防ぐのか
再発防止という言葉はよく使われます。
しかし、
何を再発させないのか
を明確にする必要があります。
同じ作業者のミスなのか。
同じ設備での事故なのか。
同じ種類の不安全行動なのか。
同じ原因による事故なのか。
例えば、薬品を取り違えた事故があったとします。
作業者へ再教育を行い、その人が二度と間違えなかった。
これだけで再発防止できたと言えるでしょうか。
別の人が同じ容器を取り違えれば、再発しています。
つまり、
人ではなく、事故を生んだ条件が再びそろわないこと
が重要です。
同じミスが起きるのは「同じ条件」が残っているから
事故は偶然のように見えることがあります。
しかし、よく見ると似た条件が繰り返されています。
表示が分かりにくい。
似た部品が隣にある。
設備操作が複雑。
時間的余裕がない。
作業者が複数工程を担当している。
確認項目が多すぎる。
こうした条件が変わっていなければ、事故の可能性も残ります。
作業者へ、
「もう気をつけてください。」
と言っても、環境が同じなら、別の人が同じことをする可能性があります。
再発防止では、
人の記憶を変えるより、事故が起きる条件を変える
ことが重要です。
「注意する」は最も弱い再発防止策の一つ
事故後、
「関係者へ注意喚起を行った。」
という対策は非常によく見られます。
注意喚起には意味があります。
しかし、長期的な効果は限定的です。
事故直後は誰もが注意します。
危険について話します。
確認も慎重になります。
ところが、時間がたつと危機感は少しずつ薄れます。
新しい人も入ってきます。
事故を経験していない人も増えます。
すると、元の状態へ戻る可能性があります。
だからこそ、
注意力へ依存する対策を恒久対策にしない
ことが重要です。
再教育だけでは設備は変わらない
再教育も同じです。
教育不足が原因なら、再教育は必要です。
しかし、
操作しにくい設備。
見にくい表示。
間違えやすい配置。
危険な作業方法。
これらは教育しても変わりません。
例えば、同じ形の二つのスイッチを間違えた事故が起きたとします。
作業者に、
「次から表示をよく確認してください。」
と教育します。
確かに、その人は注意するでしょう。
しかし、スイッチの配置は同じです。
表示も同じです。
次の作業者が同じミスをする可能性があります。
この場合、
スイッチ位置を分ける。
形状を変える。
色分けする。
誤操作できない仕組みにする。
といった対策の方が強い再発防止になります。
「対策を実施した」だけでは再発防止ではない
安全活動では、
対策実施
をゴールにしてしまうことがあります。
カバーを付けた。
教育した。
手順書を改訂した。
掲示物を増やした。
しかし、大切なのはその後です。
本当に事故が起きにくくなったか。
作業者は新しい手順を守れるか。
カバーは使いにくくないか。
安全装置を解除していないか。
新しい問題が発生していないか。
対策を行っただけでは効果は分かりません。
再発防止は、効果確認まで含めて完了
と考える必要があります。
応急対策と恒久対策を混同しない
事故が発生した直後には、まず危険を止めなければなりません。
対象設備を停止する。
危険箇所を立入禁止にする。
一時的に監視員を配置する。
作業方法を変更する。
これらは重要です。
しかし、多くの場合は応急対策です。
例えば、
「当面は二人で確認する。」
という方法は、事故直後には有効かもしれません。
しかし、ずっと二人で確認し続けるのが最善とは限りません。
恒久対策では、
なぜ一人では危険なのか。
設備側で改善できないか。
誤操作を物理的に防げないか。
を考えます。
応急対策をそのまま永久に続けると、現場負担が増え、やがて形骸化することがあります。
本当の原因まで届いているか
例えば、作業者が保護具を着用していなかったとします。
原因を、
「本人の安全意識不足」
としてしまえば、
再教育する。
注意する。
で終わります。
しかし、
なぜ着けなかったのでしょうか。
サイズが合っていなかった。
暑くて作業できなかった。
保護具が遠くに置かれていた。
曇って見えなかった。
必要性を理解していなかった。
周囲も着けていなかった。
理由によって対策は変わります。
原因分析が浅ければ、再発防止策も浅くなります。
「なぜ」を人の性格で終わらせない
なぜなぜ分析でも注意が必要です。
なぜ事故が起きた?
→確認しなかった。
なぜ確認しなかった?
→注意力が不足していた。
なぜ注意力が不足した?
→本人の意識が低かった。
これでは最後に人の性格へ行き着きます。
しかし、
「意識を高くする」
という対策は具体性がありません。
もっと改善可能なところまで掘り下げます。
なぜ確認しなかった?
→確認箇所が分かりにくかった。
なぜ分かりにくかった?
→表示が設備の裏側にあった。
なぜ裏側にあった?
→設備変更時に表示位置の見直しが行われなかった。
なぜ見直されなかった?
→変更管理の中に安全表示確認が含まれていなかった。
ここまで来ると、
変更管理の仕組みを改善する
という具体的な対策が見えてきます。
再発防止は「一段上流」へ戻る
強い再発防止策ほど、事故が起きた場所より上流へ戻って考えます。
例えば、部品取り違えなら、
作業者へ注意する。
より、
部品置き場を分ける。
さらに、
バーコードで照合する。
さらに、
間違った部品では組付けできない設計にする。
というように進めます。
安全でも同じです。
危険な行動を注意する。
より、
その行動をしなくてもよい作業方法にする。
さらに、
危険区域へ物理的に入れなくする。
という方が強い対策です。
事故が起きた場所だけでなく、事故を生む仕組みそのものへ戻る
ことが重要です。
「人が変わっても効く対策」を選ぶ
良い再発防止策かどうかを見る簡単な方法があります。
作業者が変わっても効果があるか。
例えば、
「Aさんへ再教育した。」
これはAさんには効果があります。
しかしBさんには直接効果がありません。
一方、
「扉を開けると設備が停止するようにした。」
これは誰が作業しても機能します。
つまり、
人が変わっても効果が残る対策ほど、仕組みとして強いと言えます。
「設備が変わっても効くか」も考える
もう一つ大切なのは、類似設備への展開です。
一台の設備で事故が起きた。
その設備だけ改善した。
しかし、隣にも同じ構造の設備がある。
これでは、別の場所で同じ事故が起きる可能性があります。
事故が起きた設備だけを見て終わるのではなく、
同型設備。
類似作業。
他部署。
別工場。
にも同じ危険がないか確認します。
これが水平展開です。
「事故が起きた場所だけ直す」は弱い
例えば、工場の一か所で転倒事故が起きたとします。
床の段差が原因でした。
事故現場だけ段差を修正しました。
これで終わりにすると、他の場所に同じ段差が残っている可能性があります。
本当の再発防止では、
他にも同じ段差がないか。
なぜ段差ができたのか。
施工や点検に問題はなかったか。
定期点検で発見できなかったのか。
まで確認します。
事故は、
その場所だけの問題ではなく、組織の弱点を教えてくれる情報
と考えることができます。
事故対策が新しい危険を生んでいないか
再発防止策によって、別の危険が生まれることがあります。
例えば、
安全カバーを追加した。
しかし清掃しにくくなった。
作業者がカバーを外して清掃するようになった。
ダブルチェックを追加した。
しかし作業時間が増え、急ぐようになった。
保護具を追加した。
しかし視界が悪くなった。
対策には副作用がある場合があります。
だからこそ、導入前にリスクを確認し、導入後も現場で使われ方を見る必要があります。
「対策が守られているか」を確認する
手順を改訂しても、その手順が守られなければ意味がありません。
事故後しばらくは守られていた。
しかし半年後には元に戻った。
このようなことがあります。
なぜ戻ったのでしょうか。
手順が面倒だった。
作業時間が長くなった。
管理者が見なくなった。
新人へ正しく伝わっていなかった。
こうした理由を確認します。
再発防止策には、
継続できること
も重要です。
期限を決めて効果確認する
対策後は、
一週間後。
一か月後。
三か月後。
など、一定期間後に確認します。
事故件数だけを見るのではなく、
危険行動は減ったか。
安全装置は使われているか。
手順は守られているか。
新しいヒヤリハットはないか。
現場に新たな負担が生じていないか。
を確認します。
事故が起きていないから成功
と簡単に判断しないことが重要です。
再発防止策にも「強さ」がある
対策は同じ強さではありません。
例えば、危険な設備に手を入れる事故なら、
「注意してください。」
より、
「手を入れる前に停止してください。」
さらに、
「扉を開けると自動停止する。」
さらに、
「そもそも手を入れなくても作業できる構造にする。」
というように強くなります。
一般的には、
人の注意力への依存が少ないほど、再発防止策は安定しやすい
と考えられます。
チェック項目追加だけでは現場が疲弊する
事故が起きるたびに、
確認を追加。
記録を追加。
サインを追加。
ダブルチェックを追加。
これを繰り返すと、現場の負担が増えます。
そして、確認項目が増えすぎると、
本当に重要な確認が埋もれます。
再発防止では、
「確認を増やす」
だけでなく、
確認そのものをなくせないか
を考えることも重要です。
設備で自動判定できないか。
誤操作を物理的に防止できないか。
確認しなくても安全になる方法はないか。
ここまで考えることで、現場負担と安全性の両方を改善できます。
過去の事故を「記録」で終わらせない
会社には過去の事故報告書が蓄積されています。
しかし、ファイルに保管されているだけでは意味がありません。
数年前に起きた事故を、現在の社員が知っているでしょうか。
新人教育で使っているでしょうか。
設備導入時に確認しているでしょうか。
類似作業のリスクアセスメントに反映しているでしょうか。
過去の失敗は、会社にとって貴重な知識です。
事故報告書は、
保存する資料ではなく、再利用する安全情報
として扱うことが重要です。
人が入れ替わると事故の記憶も薄れる
事故当時を知っている人は、
「あの事故は本当に危なかった。」
と理解しています。
しかし、数年たつと人が入れ替わります。
新しく入った人にとって、その事故は単なる文章です。
すると、
なぜこのルールがあるのか。
なぜこの安全装置が必要なのか。
が分からなくなります。
結果として、
「面倒だから外してもいいのでは。」
という考えが出てくることがあります。
再発防止には、
事故の教訓を世代を超えて残す仕組み
も必要です。
「なぜこのルールがあるのか」を残す
手順書には、
「○○してはいけない。」
だけでなく、
可能であれば、
なぜ禁止されているのか。
どのような事故があったのか。
何を防ぐためのルールなのか。
を残します。
理由が分かれば、ルールの重要性を理解しやすくなります。
単なる禁止事項よりも、
「過去に○○が発生したため、この手順が必要」
と分かる方が、形骸化しにくくなります。
再発防止は会社の「学習能力」
同じ事故を繰り返す会社と、事故から強くなる会社があります。
違いは、
失敗を覚えているか。
原因を深く分析しているか。
仕組みに反映しているか。
他部署へ展開しているか。
効果を確認しているか。
にあります。
事故は起きない方がよい。
しかし、起きてしまった事故から何も学ばなければ、その損失はさらに大きくなります。
一度の失敗を、
組織全体の改善へ変えられるか
が重要です。
管理者が見るべきこと
再発防止策を確認するとき、管理者は「対策を実施したか」だけで判断してはいけません。
- 応急対策と恒久対策を区別しているか
- 「注意」「教育」だけで終わっていないか
- 原因分析が人の性格で止まっていないか
- 人が変わっても効果がある対策か
- 設備や作業方法そのものを改善できないか
- 一つのミスが事故へ直結する構造を改善したか
- 類似設備・類似作業へ水平展開したか
- 対策が新たな危険を生んでいないか
- 現場が無理なく継続できる対策か
- 一定期間後に効果を確認しているか
- 過去の事故情報を教育へ活用しているか
- ルールの理由や事故の教訓を残しているか
- 人員が入れ替わっても対策が維持されるか
- 同じ原因による別の事故が発生していないか
再発防止とは、事故報告書を閉じるための作業ではありません。
事故をきっかけに、職場の仕組みを一段強くする活動です。
まとめ
同じミスが繰り返されるのは、
人が反省していないから
とは限りません。
多くの場合、
同じミスを生む条件が残っている
ことに注目する必要があります。
事故後に、
注意する。
教育する。
確認を増やす。
これらが必要な場合はあります。
しかし、それだけで恒久対策と考えるのは危険です。
設備。
作業方法。
表示。
配置。
管理方法。
組織の仕組み。
ここまで見直し、人の注意力への依存を減らすことが重要です。
そして、
事故が起きた設備だけで終わらせない。
類似工程へ展開する。
一定期間後に効果を確認する。
過去の事故を教育へ使う。
ルールが生まれた理由を次の世代へ伝える。
そこまで行って初めて、再発防止が組織の力になります。
事故報告書に、
「再教育を実施した。」
と書くことは簡単です。
しかし、本当に問うべきなのは、
「同じ状況が明日起きても、同じ事故にならないか」
ということです。
人を替えるのではなく、仕組みを変える。
注意を増やすのではなく、間違いにくくする。
一つの現場だけで終わらせず、組織全体で学ぶ。
再発防止とは、過去の事故を終わらせる活動ではありません。未来の事故を減らす活動です。
一度の失敗からどれだけ学び、職場を強くできるか。
そこに、その組織の本当の安全力が表れるのです。

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